「真知ちゃん、おれ、昔、わいわい族だったんだ」
何それ、と言って、真知子は身をよじる。おれは、彼女の抵抗をものともせずに、
羽交締めにして耳許で教えてやる。
それでね、真知ちゃんは、ずっとずっと、どってことない族だったんだ。
信じられない思いだった。年上であったりとか、体が大きくて頑丈そうであったりするのは、強さ弱さと関係がないのだと知った。男である、女であるという違いにも。
こうしちゃいられない、とあたしは幼い頭で考えた。自分の身を守るのは自分しかいないのだ。そして、強そうに見える人を、時には、あたしの方が守ってやらなくてはならないのだ。
ひとりで飯を食うのつまんないから、とか、コンサートチケットが一枚余ってしまったから、とか、ゲームの対戦相手が欲しいから、などなど。あたしは、こういう他愛もないことで求められるのを愛と呼びたい。
よく、くだらない連中に何か不快な目に遭わされても怒ってはいけない、同じレベルになってしまうから、と言う人がいる。あたしは、むしろ、怒らなければ同じレベルになってしまうと考える。だから、怒りの火は消さない。
開け放したフランス窓から吹き込んで来る五月の風のための風鈴のように、クリスタルグラスが澄んだ音を何度も何度も響かせる。気分がいいったら、ない。五月の風をゼリーにして持って来い、と綴った詩人は誰だっけ。シャンパンに溶かして口に含んだ方が、はるかに美味だと教えたいくらいだ。
わいわい族、どってことない族、私は何族だろうか。
わたしは強くないから、わいわい族にも、どってことない族にもなれない気がする。
わたしは強くないから、わいわい族にも、どってことない族にもなれない気がする。
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