2015年10月20日火曜日

眠れる分度器


「ま、奥村先生を気に入らないのは仕方ないな。しかし、秀美が、嫌いだってのを態度に出しても仕様のないことだぞ。教師だって、人間だ。聞けば、その奥村さんとやらは、まだ三十五歳だって言うじゃないか。彼には、彼なりの理想があるだろう。それと秀美が合ってないだけで、ひどい奴ときめつけるのも早計だぞ。黒か白かときめつけるのは、仁子もそうだが悪い癖だ」

「でも、あの先生の言うことを、はいはいって、ぼく聞けないよ。頷いてばかりいれば、良い子だって思われるのは解ってるけどさ、明らかに正しくないことに従えないよ。ぼく、先生が間違ってるってことを言おうとすると、すぐ怒られる」

「言い方にも、問題あるんじゃないのか?秀美がむきになると、迫力あるからなあ。まだ、がきのくせして」

「うん。時々、ぼくもそれは少し良くないかなって思う。ぼく、人を馬鹿にしたりする時、根性悪そうな目付きになってるの自分でも解るもん。でも、おじいちゃん、誤解しないで欲しいけど、なにかハンデを持ってる人のことは馬鹿にしたりしないよ。偉くもないのに、偉そうにしてる奴を馬鹿にするんだよ」

「そりゃ感心感心。けどね、秀美、馬鹿にしてることを相手に知らせようとはしないで、同情してあげたらどうだね。その方が、波風立てないし、相手にも効くぞ」

「そうなの?」

秀美は、ぼんやりと宙を見た。あの奥村に同情するなんて、そんなこと出来るだろうかと、彼は疑問に思った。

「同情ってことを覚えると、優しい顔付きになるぞ。ただし、それは、ほんとに優しいってことと違うよ。一種のお芝居だ。同情仮面は便利だぞ」



もう読むの何回目だろう。
読むたび、はっとさせられる。
その箇所は毎回違うように思う。
秀美くん、当時小学生。わたし、現在大学7年生。なんじゃそれ。

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